標高約1000m、真夏でも朝晩は肌寒い、爽やかな草津の高原で、
二泊三日の合宿を行ってきました。
参加者は4名。医療、心理、福祉、教育など職種は異なっても、心の支援を行っているセラピスト(支援者)たちです。
普段、広尾のオフィスで行っているスーパーヴィジョンは、個人SVが1時間、グループSVが2時間ですが、「合宿」では3日間かけて計12時間の濃密なトレーニングを行います。毎夏行っており、今回が4回目(かな?)になります。
普段のSVでは、主にケース(クライエント)について語ります。
合宿では、より深いレベルのSVとなります。ケースというよりも、ケースを受け止める支援者自身の内面を語ります。
人は、否定的な体験と肯定的な体験を持っています。
否定的な体験とは、他者から否定される体験です。その結果、不安、恐れ、悲しみ、自信のなさ、自己否定、怒りなど、様々な否定的感情を持ちます。
肯定的な体験とは、その反対に、他者から肯定される体験です。褒められる、愛される、承認される、理解されるなどです。その結果、喜び、幸せ感、自己肯定、自尊心などの肯定的な感情を持ちます。
誰でも、肯定的・否定的、両者の体験を持ちます。
健康に生きていくためには肯定的体験が大切です。否定的体験・感情は知力・腕力・地位・経済力などの鎧を作って、その下に隠します。自分自身でも見えないように否認します。
普通の人はそれで良いのだと思います。人生80年(最近は100年だそうですが)、それでなんとか健康で幸せな人生を終えることができます。
しかし、否定・肯定体験のバランスが崩れ、否定的な体験・感情が多すぎると、健康に生きることが困難になり、様々な問題を生じます。
その場合、なんとか肯定的な体験を増やさなければなりません。
心の支援者は、否定的体験を肯定的体験に変換します。
そんなことできるのでしょうか?
過去の体験そのものを変えることはできません。
しかし、体験に与えられた意味づけを変換することは可能です。
否定的な体験が十分に表出され、他者により受け止められ、承認されると、否定的体験を生き抜いた自己が肯定されます。
その他者の役割を果たすのが心の支援者です。
しかし、その作業はとても困難です。
心理学や精神医学を学べば、クライエントの心理や病理を理性的に(理屈で)理解することはできます。病名・障害名のラベルをつけ、そこから導き出される治療法やお薬を与えることができます。
しかし、本当に必要なことは、クライエントを感性的に共感することです。
相手を受容し、共感すること。
これは簡単なようで、とても困難です。
黙ってひたすら聴いて「ふんふん」と相槌を打てば、一見共感しているように見えますが、そんなものではありません。
そのやり方を理屈(勉強)で学ぶことが不可能です。
理性は学ぶことで会得できますが、
感性は体験することでしか会得できません。
夏合宿では、その体験が実現します。
否定的体験を語れば、辛く苦しい感情が表象に上がります。普段隠している感情が表に出てきて、不安や恐れ、悲しみ怒りなどに圧倒され、自分が崩壊する不安を感じます。その恐怖を体験し、それが他者によってそのまま受け止められ、共感された時の喜びや感動を味わいます。その感覚は言葉では表せません。
自分が自分のままでいられる感覚今まで堅く守っていた部分の力が抜けて、楽になる、リラックスできる背伸びしなくても良い自分を受け入れられる自信を回復した
このような表現で合宿の体験は表されます。
しかし、体験していない人にとっては、何を言っているのか理解できないでしょう。
このような体験を経ると、支援者は自分の否定的体験・感情をセラピーに利用できるようになります。今まで隠されていたブロックが解除され、クライエントの体験を、自分の体験を参照できるようになります。
言葉では説明できない感性が相手に伝わり、受け止められ共感される安心感を、クライエントに自然に伝えることができるようになります。
今回も、参加者たちは、そのような体験を持ち帰りました。