2018年04月26日
中学生の娘を怒り過ぎて、ダメにしてしまいそうです。助けて下さい。
という主訴で、あるお母さん(A子さん)が相談にやってきました。
娘は、幼いころから個性の強い子でした。
何をやるにも遅くて、服は脱ぎっぱなしで片づけられません。
一年中、自分の気に入ったひとつの服だけを着て、とてもこだわりの強い子でした。
小学校に入っても心配で、先生から呼び出されて、遠回しに「療育が必要」と言われた気がしました。
ネットやたくさんの本を読んで、「発達障害」のことを調べました。
しかし、夫は、娘は病気ではないと言い張り、障害があることを受け入れてくれません。
夫婦で1時間くらい話し合っても、夫はしまいに怒り出してしまいます。私の心配を理解しようとしてくれません。
A子さんはとても真面目な性格で、何事にも諦めず熱心に取り組んできました。
学校では優秀な成績を収め、自分の仕事に誇りを持っていました。
結婚した後もしばらく仕事を続けていましたが、妊娠を機に思い切って退職し、母親業に専念しました。
地域の子育て支援センターでペアレントトレーニング(親業)の訓練も受けました。夫にも受けるよう勧めても、必要ないからと拒否されました。
娘が中学2年生になってから、ほぼ毎日、私は娘と喧嘩してしまいます。私は大声で怒鳴ってしまい、夫はそれに耐えられずに逃げるんです。
娘もイライラしてしまいます。それが、学校でも出て、担任の先生に当たり、先生から三者面談の時に、別室に呼ばれて注意されました。
今は、言いすぎると、余計反応すると思って、言わないように我慢しています。
私はA子さんに尋ねました。
我慢していらっしゃるんですか?
それじゃあ、苦しいでしょう?
このままでは、二十歳になっても身の回りの始末をできないと思うと、頭の中が真っ白になります。
娘さんは今14歳ですから、二十歳になるまでまだ7年ありますね。どうして二十歳になっても身の回りの始末をできないとわかるのですか?
娘を普段見ていると、親から離れるとかしないかぎり、ずっと自分で自分のことはできないと思ってしまうのです。
心配性の私と引っ張り合いをしてしまうんです。
お母さんの中には「心配性の私」がいるんですか?
子どもが出来ないから、母親である私がしてあげないといけないと思うんです。
「お母さんという病気」なんです。
A子さんは自分の気持ちを丁寧に語っていくうちに、心配し過ぎで自分自身を苦しめていたことに気づきました。
私から、こう伝えました。
娘さんは、発達障害ではありませんね。
すると、母親の表情はぱっと明るくなりました。
A子さんは、専門家に診断してもらったことはありません。A子さんの中で、そう思い込んでいました。
A子さんは、与えられた役割をきちんとこなしてきました。学校でも、会社でも、そして母親になってからも。
親の大切な役割のひとつが、心配することです。子どもに危険が迫る可能性をいち早くキャッチして、子どもを守ります。
A子さんの言葉を振り返ってみましょう。
A子さんは子育てをきちんと完璧にこなそうとがんばっていました。
そのため心配をキャッチするアンテナの感度が高すぎたようです。
子どもの個性が強いのはとても良いことです。しかし、A子さんにとって、それは他の子どもたちと同じでないといけない、協調できなければいけない、ひとりだけ目立ってはいけないと感じてしまったのでしょう。
子どもは、何をやるにも遅いです。
服を脱ぎっぱなしにして片づけられないのが子どもです。
自分の気に入った服は毎日着たいものでしょう。
それらを正常の範囲内にとるか、「病気」あるいは「発達のかたより」ととるかは、親のアンテナの強さによって、どちらでも可能です。
夫が「子どもに問題ない」と見立てても、心配のアンテナが強すぎるA子さんは聞き入れません。心配が肥大してしまうと、からまわり状態になり、周りの人が何を言っても受け付けられず、跳ね返してしまいます。
先生から言われたかもしれない遠回しの「療育」という言葉を敏感にキャッチして、ネットや本で調べれば、発達障害の症状が自分の子どもにも当てはまると受け取ってしまいます。
そのような心配に満ちた環境で育った子どもは、自分自身も心配するクセを身に着け、アンテナの感度が敏感になり、まわりの刺激に過剰に反応します。
それでも幼い頃は、母親に従順に従っていた娘も、思春期になり発言力が増すと、母親と娘の火花がスパークして、お互いの怒りがエスカレートしてしまいます。
怒り過ぎて、そのことさえ「子どもをダメにしてしまう。」と心配して、疲れ果て、A子さんは相談にやってきました。
A子さんに必要なことは、7年先の二十歳まで先回りして心配するアンテナを下ろすことです。そのためには、「心配」を打ち消す「安心」が必要です。
私は、「娘さんは病気ではありませんよ。」と伝え、安心を与えました。
お母さんが心配から解放されると、今までの自分や子どものことを客観的に振り返ることが出来るようになります。A子さんは感極まって、さめざめと泣きました。
そうなんです、今までは娘の悪い部分ばかり目が行っていました。
よく考えてみれば、うちの子は良い部分もあるのです。私に気を遣い、率先してお手伝いをしてくれます。私に優しいんです。
と初めて娘のプラス面を語ってくれました。
心配が先行すると、マイナス面をキャッチして怒ります。
安心が生まれると、プラス面に目を向けることができるようになります。
娘さんも、母親のA子さんも病気ではありません。
娘さんは発達障害ではないし、A子さんは「心配性」ではありません。
ただ、A子さんのアンテナの感度が良すぎて、心配が増幅されてしまっただけです。
子育てには心配と安心の両者のバランスが大切です。
孤軍奮闘していると、どうしても心配ばかりに心が傾いてしまいます。
信頼できる他者との関わりが、孤立した子育てを解放し、心配と安心のバランスを取り戻すことができます。