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家族の力で問題解決

2017年06月22日
強い心と弱い心

人は強い心と弱い心の両方を持っています。

弱い心
強い心
傷つきやすさvulnerability
回復力resilience
自己否定(自分で身を守れない)
自己肯定(自分で身を守る)・自信
外発的動機づけ
(まわりの力で動く:親のエンジン)
内発的動機づけ
(自らの力で動く:自分のエンジン)
困難さからの撤退
困難への挑戦

弱い心とは、傷つきやすさvulnerabilityのことです。自分はダメな人間と思い込み、周りの人が自分のことをどう見ているかとても気になり、人の視線を気にします。人の言葉や些細な行動を否定的にとらえ、人と関わることに自信を失います。傷かないように、ひきこもります。

強い心とは回復力resilience、言い換えれば心の元気さのことです。逆境に遭遇しても自信を失わず、困難に挑戦し、なんとか乗り越えようと前に進みます。相手から傷つけられても撤退せず、人と関わり続けます。
もともと「弱い人」「強い人」というのはありません。だれでも弱い心と強い心の両方を持っていて、その割合が変化しているだけです。
弱い心が増える状況とは、逆境や失敗体験が重なる時、喪失体験の悲しみが強い時、ストレスが加わり疲れがたまる時、孤立して理解してくれる人がいない時などです。
強い心が増える状況とは、物事がうまくいっている時、良き理解者が近くにいる時などです。

弱い心の割合が高くなると、自分は弱い人間だと思い込みます。しかし実際には、弱い心が前面に出て、強い心が陰に隠れ見えなくなっているだけです。
強い心の割合が高くなると、自分には乗り越える力があると自信を回復します。
状況によって、人はいくらでも弱くなります。
状況によって、人はいくらでも強くなれます。
ですから、諦める必要はまったくありません。
諦めてはいけません。

どうしたら、ひきこもりから抜け出すことができるのでしょうか?
強い心が十分に機能するようになれば、自然にひきこもりから脱します。

すべての人は自立する力を持っています
身体の栄養さえ足りていれば、子どもは自然に背が伸びます。その栄養素はたんぱく質、炭水化物、ミネラルなど食事に含まれています。
自律する力も同じ考え方です。心の栄養さえ足りていれば、子どもは自然とウチの世界から巣立ちソトの世界に飛び立ちます。
その栄養素は、守る愛と放す愛という対人関係の中に含まれているふたつの栄養素です。

子どもの自立をうながす二種類の愛情
守る愛
放す愛
危機の回避・保護
傷つきへの挑戦
問題の早く見つけ保護する
本人を信頼して問題解決を任せる
傷つきやすさをカバーする
回復力を信じる
ウチの世界の万能的自我を承認する
ソトの世界の傷ついた自我を承認する
安定性を保つ
変化と成長を促す

守る愛は、子どもを無条件に愛し、そのままの姿を肯定します。思春期前の幼い子どもにとって重要です。
放す愛は、子どもの回復力を信じて、困難に挑戦する勇気を与えます。自立して、ソトの関係性に導きます。思春期には放す愛が重要になります。

自立する栄養素は、人との関わりの中にあります。
ソトの世界との接点が維持されていれば、人々との関わりから栄養を吸収できます。種々雑多な人々と試行錯誤を繰り返しながら、大人の関係性を少しずつ身につけていきます。家族はそれほど活躍する必要はありません。

家族が子どもに自信を与え、ひきこもりを回復する

しかし、ひきこもると、ソトの人たちとの交流が途絶えます。唯一、関わることができるのは、家族の人たちです。家族が良質なふたつの栄養素(守る愛と放す愛)をたっぷり与えます。
ひきこもりの脱出には、家族の力がとても大切になります。

ひきこもりの葛藤期には、ストレスから身を守ろうとする子どもを信じて、守る愛を与えます。親は口出しをせず、子どもに任せて、安心してひきこもれる環境を提供します。
ひきこもりの自閉期と試行期には、子どもの潜在力を信じて、放す愛をたくさん与えます。安心してひきこもりから脱する環境と、社会に戻る勇気を与えます。
 よくカウンセラー(心の専門家)は「ひきこもっている子に対して親や周りの人は、何も口出しせず、子どもが自らの力で回復するのを待ちましょう。」と言います。これは葛藤期に大切です。親の過剰な言動は、子どもにとってストレスとなります。
 しかし、自閉期と試行期には逆効果です。子どもの関係性から大人の関係性に切り替えることができず、ひきこもりが長期化します。この時期に家族は放す愛をたっぷり与え、安心して社会に飛び出す環境を与えます。

親の強い心と弱い心
親の心にも強い心と弱い心があります。
親の強い心は子どもを信頼して、子どもの状況をよく見極め、守る愛と放す愛を上手に使い分けます。子どもに安心感を与えます。
親の弱い心は、子どもが傷つくことをとても心配します。子どもに不安感を与えます。そして、守る愛と放す愛のバランスを失います。放す愛が必要な時にも、守る愛を与えすぎてしまいます。子どものことを先回りして心配して、子どもにたくさん口を出したり、守りすぎてしまいます。自立したい思春期の子どもは、そのような関わりをとても嫌がります。
あるいは、不適切な放す愛を与えてしまいます。子どもは、親との良い関わりを求めています。しかし、子どもが親から何かを言われるのを嫌がるだろう、親からの影響を嫌がるだろうと過剰に心配して、親は何もしない方が良いと思い込んでしまいます。結果的に、腫れ物に触るように子どもに接し、親の愛を何も与えられなくなります。
子どもがひきこもると、親は自分の失敗と受け止めて、子どもに関わる自信を失い、弱い心が増殖していきます。

家族力を発揮するために

ひきこもりに限らず、家族の力は、子どもや家族の問題を回復へ導きます。家族の力とは、家族みんなが強い心をしっかり保持して、ちゃんと繋がっている状態です。そのためにできることを具体的に説明します。

孤立した子育てからの解放
子育ては難しいものです。一人だけではうまくいきません。
子どもが学校に上がるまでは保育園や地域の子育てサポートもあり、若い父親も積極的に子育てに参加します。しかし、小学校に上がると、一見手がかからなくなるので、母親一人で育てられると思いがちです。
思春期の子育ては難しいものです。思春期こそ多くの子育てサポートが必要です。

母親中心の子育てからの脱却
児童期から思春期に入ると、子どもへの関わりが格段に難しくなります。手はかかりませんが、高度な判断が求められます。子どもは自立しようとして親に反抗します。親も子どもも傷つきます。親は守るべきか、放すべきか迷います。誰にも相談できず、ひとりで子どもに関わっていると、どうしても保守的になり、のびのびとした元気な子育てが出来ません。どうしても安全な方向、つまり守る愛に傾きがちになります。
母親ひとりだけではなく、子育て体験を同じ目線で関わる人が必要です。

父親と母親が協力する
思春期の親は働き盛りの世代で、仕事のストレスも大きく、子どもや家庭のことを考える余裕がありません。夫婦で子どものことを話し合う時間も十分ではありません。子どもが順調に成長している時は、それでも構いません。
しかし、子どもに問題の兆しが見えた時、父親は仕事の忙しさを乗り越えて、家族の時間を意図的に作り出します。たくさんの時間は必要としません。短時間でも良いから、毎日子どもの様子を情報交換して、どう関わったら良いのか、両親でよく話し合います。それが家族の力です。

母親と父親が折り合う
男親と女親は考え方が違うものです。
伝統的に、母親は守る愛を、父親は放す愛を発揮します。
困難な状況に遭遇した時、母親は「無理しない方が良い」と伝え、父親は「困難に立ち向かえ」と伝えたります。
言っていることは反対なのですが、どちらが正しくてどちらが間違っているということではありません。両方の要素が必要です。両方のやり方を折り合わせて、子どもに関わってあげてください。

家族の負の遺産を整理する
家族はプラスとマイナスの体験を前の世代から引き継いでいます。負の遺産を多く抱えていると、プラスの家族の力を発揮できません。家族の力を発揮するために、棚上げしていた遺産を整理します。具体的には次のような体験です。

1)喪失の悲しみ
死別や離別によってパートナーを失った時、あるいは子どもを突然失った時、親は守る愛に傾きがちになります。特に、家族を自死により失う痛手はとても大きいものです。はとても辛いので、記憶を心の冷凍庫に凍らせています。しかし、心に秘めた悲しみいつまでも消化できません。
悲しみを整理するためには、それを安全に語り、触れてはいけない思い出から、想起しても大丈夫な思い出に変換します。

2)失敗体験
過去の失敗から回復できていないと、また失敗を繰り返すのではと心配します。
例えば、子どもの頃、ひきこもっている人が家族にいると、親になっても自分の子どもがひきこもるのではと心配します。きょうだいが親と葛藤している姿に傷つくと、親との葛藤を避け「いい子」を演じようとします。

3)心配性の世代間伝達
自分の親からたくさんの心配を受けると、過剰に心配すること(弱い心)が家族の伝統となり、自分の子どもにも必要以上にたくさん心配します。

タイムマシンで過去に戻り、これらの遺産(喪失・失敗・心配性)を取り消すことはできません。負の遺産を思い出すのはとても辛いのですが、その体験を言葉で語り、信頼できる人に受け止め、理解してもらいます。すると、今までは「語ることができない、恥ずかしい、自尊心を下げる体験」が、「辛いけれど話すことが出来て、人が理解してくれて、同じような境遇に遭遇すれば誰にでも起こりうる体験」に変換されます。そうすれば、自分を責める必要がなくなり、過去の遺産を清算できます。
家族を縛っていた負の力から解放されると、新たな家族の力を呼び戻すことができます。

安心できるガイドラインを与える
思春期は学校、進路、就職、結婚と、さまざまな選択肢が待ち受けています。道に迷った時、どの方向に進んだらよいのか明確なガイドラインが必要です。決めるのは本人です。しかし、どの道が安全で選んでも良い道なのかを示すのは親の役目です。
 子どもに問題が生じると、親はどう子どもに関わったらよいのか迷います。
l  今、子どもに何が起きているのか?
l  なぜ、そうなるの?
l  どうすれば解決できるのか?
l  子どもにどう接したら良いのか?
これらの疑問に答えてくれる明確なガイドラインが必要です。
今まで行ってきたやり方でうまくいかなければ、違った新しい視点が必要です。
そのために、子どもと家族を支援してくれる第三者につながります。田村研究室では、子どもと家族の正確なアセスメントを行い、的確なアドバイスを差し上げます。