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こうやって話すと、辛くなりますよね?

2017年02月22日
P子さんは、息子のひきこもりについて相談にいらっしゃいました。
カウンセラーに相談するのは初めての体験です。
始めは、息子さんのことを話していたのですが、途中から、家族の話に移っていきました。

実は、家族の問題なんです。

と言いながら、家族が長年抱えてきた問題や、P子さんの辛さをよく語ってくれました。
最後に、P子さんが語ってくれた感想が、表題の言葉でした。

こうやって話すと、辛くなりますよね?

確かにそのとおりです。
人は、他者の問題については比較的話しやすいのですが、自分自身の問題について認め、語ることは、とても辛いことです。
なぜなら、痛みを自分自身で請け負わなければならないからです。

P子さんは、その痛みに耐え、よく語ってくれました。
とても、しんどかったでしょう。
しかし、それが根本的な問題解決への第一歩なのです。
その辛さを通り越すと、幸せを得ることが出来ます。

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S雄さんとT子さんが、夫婦カウンセリングにいらっしゃいました。
ふたりで一緒に相談した後、S雄さんはひとりで相談したいからと、T子さんに席を外してもらいました。

実は、T子を先生に診断してもらいたいんです。
ネットで見たら、T子は境界性パーソナリティ障害か、うつ病だと思うんです。
治るものなら、治してほしいです。
もし治らない病気なら、離婚したいと思います。
その場合、妻は病気だという先生の診断書を書いて下さい。

二人とも、人間としてはとても素敵な人です。
結婚するまでは、とても幸せでした。
しかし、5年たった今のふたりの関係は最悪です。

その一番の要因は、二人とも、心の中に抱えている大きな負の遺産です。
二人は、安全な家族で育ちませんでした。
一見、ごくふつうのご実家なのですが、家族の中に見えない葛藤を抱え、お互いを傷つけあいながら成長しました。
その体験が、二人の関係性に大きく影響しています。親密になり、心理的距離が近づくと何か悪いことが起きるのではと不安になり、自分を守るために、無意識のうちに相手を傷つけてしまいます。その応酬がエスカレートして、ふたりとも耐えられなくなりました。

T子さんは、自分の実家問題に気づいています。
そのことを認め、どうにかして自分が良くなりたい、夫婦関係が良くなりたいと、助けを求めています。

一方のS雄さんは、自分の家族に問題があったということを認めず、自分自身の意識からも追い出しています。
私から、「これはおふたりの関係性の問題であり、双方が変わらなくてはならない」と申し上げるのですが、S雄さんは認めません。
S雄さんにとって、問題の所在はあくまでT子さんに属し、自分自身の問題性は否認しています。

だれでも、自分の問題や欠点を請け負うことはリスクを伴います。
一時的に自尊心を失い、自信とやる気を失ってしまう。
P子さんも、S雄さんも、過去に家事や仕事が出来なくなり、寝込んでしまった時期がありました。
S雄さんは、医者に診てもらい「病気じゃないよ」と元気付けられ、どうにかカムバックしました。
そんな事情があるので、P子さんもS雄さんも、自分の心の健康に不安を抱えています。

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自分の弱みに鎧をかぶせ、隠せば、取りあえずどうにか動けます。
自分の弱みを開示してしまうと、痛くて動けなくなることもあります。
そこが難しいところです。
隠せる範囲内なら、棺桶まで持って行っても良いのかもしれません。
しかし、それが限界を超えて大きくなると、自分一人では処理できなくなります。
他者に救いを求めるしかありませんが、そのためには、どうしても自分の弱みを開かなければなりません。
自分自身でもそれを見ないといけません。
それは、恥ずかしく、落ち込んでしまいます。

だれでも、病院に行くのは嫌なものです。
痛いところを見せないといけません。
診察するために、服を脱いで、裸の姿を晒さなければなりません。

歯が痛くても、市販の痛み止めでどうにか我慢できるならいいのですが、
どうしようもなくなったら歯医者に行き、口を大きく開けなければなりません。

やぶ医者にはかかりたくありません。
よっぽど信頼出来る医者でなければ、自分の痛みを見せたくありません。

何を根拠に信頼出来るのでしょうか?
1)的確に診断して、痛みを取り除く腕があること。
2)自分の痛みをちゃんと理解して受け止めてて、無理せず、丁寧に優しく対応してくれること。
このふたつがとても大切です。

心のケアも同様です。
A) 心の痛みが、一人でどうにか処理できる範囲であれば、人に頼らず、痛みは自分の心の中に閉じて、自分で何とかがんばります。
B) しかし、それを超えたら、信頼できる人に自身の痛みを開き、自分自身もそれを認めます。

両者とも大切なことです。
この両方をうまく使い分けることが肝心です。
しかし、なかなかうまくいきません。
P子さんも、S雄さんも、既に限度を超えて、息子のひきこもり、あるいは夫婦関係が破たん寸前という深刻な問題を抱えているのですが、(A)から(B)に移行できません。
P子さんは「息子の問題」、S雄さんは「妻の問題」として処理され、「自分自身の問題」が棚上げされています。上手にたな卸し出来れば、子どもや夫婦関係の問題は必ず快方へ向かいます。

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自分でがんばるか、人に頼るか、、、
その志向性は、人によって異なります。

私の20歳の娘は、何か困ったことがあると、すぐに「助けてー!」と人に頼ってきます。
私の18歳の息子は未だ反抗期なのか、親と会話しません。困ったことがあっても、自分で解決しようとします。
今朝も、家の中で飼っているビーグル犬が粗相(ウンチ)をしてしまいました。
息子は親に救いを求めず、自分ひとりで掃除していました。
もしこれが娘だったら、家族みんなを巻き込んで大騒ぎです(笑)。

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大学に勤務していた頃、新入生の健康診断を担当していました。
診察の前に問診票を渡します。

( )夜、寝つきにくいことがある。
( )気分が悪くなることが時々ある。
( )食欲がわかないことがある。

といった質問にチェックしてもらいます。
ほとんどの学生たちは健康そのものなのですが、男子と女子でマルの数が異なります。
女子はマルの数が多いです。しかし、診察してみると、それほど大したことではなく健康です。
一方、男子はほとんどマルをつけません。診察して問題がある場合もです。

一般的な傾向として、
女性は、自分の弱みを開示して、他者に救いを求めることが得意です。
男性は、人に弱音を見せず、自分でなんとかしようとがんばります。

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私は、中学で柔道部でした。
柔道は受け身がとても大切です。
組み手をしている時は、身体に満身の力を込めて頑張ります。
しかし、どうしようもがんばれなくなり、相手に倒される瞬間、ふっと全身の力を抜くのが受け身です。すると、安全に倒れることができ、骨折などのケガから体を守ります。
相手に負けることを否認し、最後まで頑張り続けると、大きなケガをします。

私は高校で山岳部でした(笑)。
ヒマラヤ登山隊は、莫大な資金と労力を重ね、8000m級の山を目指します。
隊長は、気象と隊員のコンディションを見て危険が高いと判断すると、頂上アタックを断念します。せっかく目前まで迫ったのに、今までの努力が水の泡と消えます。
そうやって、隊員の命を守ります。

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人の本当の勇気とは、前に進むことばかりでなく、必要な時には撤退できる力です。
苦労して作り上げてきた自分の鎧(プライド)を脱ぎ、弱さを認める辛さに耐える力です。