2014年05月30日
民放テレビ局から中年のひきこもりに関する番組の出演依頼が来た。
一端引き受けたが、さらに内容について電話で相談した結果、お断りした。
午前中の奥さまワイドショー的番組のディレクターから打ち合わせの電話があった。
「中年のひきこもりで、親のすねをかじって遊びほうけているような例はありますか?」
ひきこもりの例はたくさん知っていますが、そんな例はありませんよ。外で遊びほうけることができるほど元気なら問題ないのですが、実際はそんなことできません。
「ひきこもりは精神病というか、もっと暗いのですか?」
いや、精神病でもないのですが、暗いというより、精神的には弱者ですね。
「最近は『スネップ』というように、彼らは親のすねをかじってけしからんという文脈に持っていきたいのですが。」
それは私が普段支援している方向性と真逆ですね。ただでさえ、ひきこもりとその家族はまわりからの偏見の目を恐れているのに、そのような趣旨では、ますます偏見を強めてしまいます。それではお引き受けできません。
というわけで、断った。
番組ディレクターから聞くまで「スネップ」などという言葉も知らなかった。親のすねをかじるから「スネっぷ」なのではなく、
SNEP (Solitary Non-Employed Persons、孤立無業者)という和製英語のようだ。また、変な言葉をこしらえたものだ。
まあ、一般社会の精神病やひきこもりに対する理解はそんなものなのだろう。
テレビのワイドショーは、芸能人や犯罪など社会の「闇」の部分を暴き出し、怖いもの見たさの視聴者の関心を引き、それに比べれば私はまだマシだわという安堵感を与えようとする。社会の中に批判するべきターゲットを作った方が、ターゲット以外のマジョリティーに属するアイデンティティを与えることができる。
私は臨床の仕事をとおして、ひきこもりのような心理的弱者(マイノリティー)を、病気や怠け者といったマイナスのラベルを剥がし、偏見から解放したいと思っている。
来週、お台場のスタジオに生出演する予定だったのだが、事前に番組の趣旨を知り、「社会的・報道的弱い者いじめ」の加担をせずに済んで、ホッとしている。